児童福祉の現場から② 〜子育て今昔〜

 前回、最近になって虐待の相談対応件数が増えているということを書いたが、では、今と昔を比べると、今は、昔に比べて子育てが大変になったのだろうか。
 ミルクをあげたり、オムツを替えたりという子育ての行為それ自体は、今も昔も変わらない(むしろ、調乳器具やオムツの進歩により楽になっている)はずだから、もし、子育てが大変になっているとしたら、変わったのは周囲の環境ということになる。

 平成24年度版の厚生労働白書は、次のように書いている。「少子化核家族化の進行、地域のつながりの希薄化など、社会環境が変化する中で、身近な地域に相談できる相手がいないなど、子育てが孤立化することにより、その負担感が増大している」(P.314)。こうした説明は、児童福祉関係者の間ではよく使われており、実は私自身も使うことがある。だが、これは本当なのだろうか。

 例えば、統計データで20年前と今とを比較してみると、
 出生数:122万人(1991)→105万人(2011)
 合計特殊出生率:1.53(1991)→1.39(2011)
 核家族割合※:69.1%(1992)→79.1%(2011)
 ※子どものいる世帯に占める核家族世帯の割合
 となっており、これをどう評価するかは難しいところだが、少子化核家族化は進んではいるものの、そこまで大きく変わってはいないという見方もできるのではないか。

 むしろ、統計的には、経済環境の変化の方が大きいように見える。
 例えば、生活保護を受けている世帯のうち、稼働年齢層と考えられる世帯(「その他の世帯」)の数は、
 46,717世帯(1991年度)→253,740世帯(2011年度)
 と大幅に増加している(ただし、この世帯数には子どもがいない世帯も含まれている。)。
 また、子どもを持つ世帯の平均所得金額と生活意識をみると、
 所得:747.4万円(1998)→658.1万円(2010)
 生活意識が「苦しい」とする世帯の割合:59.0%(1999)→69.4%(2011) 
 となっており、ネット上で資料が見当たらないため10年前との比較になるが、所得と生活意識の悪化がみられる。

 出典:出生数及び合計特殊出生率については「人口動態調査」(厚生労働省)、核家族割合、平均所得金額及び生活意識については「国民生活基礎調査」(厚生労働省)、生活保護受給世帯数については「福祉行政報告例」(厚生労働省

 このように、「少子化核家族化の進行」といった社会環境の変化よりも、少なくとも統計上は、収入などの経済環境の変化の方が大きいようにみえる。貧困も子育てをしていく上での大きな障害の一つだから、今と昔を比べた場合、経済状況の悪化が家庭での養育力低下の大きな要因という見方もできるだろう。

 いずれにしても、保育所や幼稚園、子育て支援拠点などの現場からは、一様に、最近は家庭での養育力が低下している、という話を聞くから、統計だけでなく、実態としても、昔と比べて家庭での子育てが大変になっているのだろう。それを具体的に裏付けるデータが整理されると、なぜ今子育て支援を充実する必要があるのか、という説明がより説得的になると思う。

 そこで、今と昔とを比べて子育てが大変になったのか、妻に聞いてみた。以下は妻との会話。
 私:「自分の親たちの頃と比べて、今は子育てが大変になったのかな。」
 妻:「当たり前じゃない。ウチは両親と同居だったから、おばあちゃんがしょっちゅう面倒を見ていたわよ。」
 私:「でも、一般的には核家族化なんてずっと前からの話だし、ウチの両親は親と別居だったよ。」
 妻:「あなたのウチは、おじいちゃんが医者じゃない。子どもが病気のときが一番大変なのよ。おじいちゃんが医者だったら、すぐに診てくれるじゃない。だいたいあなたはイクメンとか言っている割には・・・(以下略)」

 ウチの奥さんはいつだって現実的なのである。