新・働き方を見直す2 〜働き方のビジョン その1〜

 働き方の見直しについての政策論に入る前に、我々がどういう働き方をしたいと思っているのか、あるいは、どういう働き方が望ましいと考えるのか、という「働き方のビジョン」について考えたい。
 働き方が多様化している、と言われて久しいが、そうした中で、では、従来のいわゆる専業主婦モデルから、どのような働き方を目指していくのか、ということになると、「多様で柔軟な働き方」という以上に、具体的な「働き方のビジョン」が議論されることはこれまで少なかったのではないだろうか。

 「働き方のビジョン」を考える上で参考になるのは、サイボウズの取り組みだ。サイボウズは、2014年に「ダイバーシティ経営企業100選」にも選ばれるなど、柔軟な働き方ができることで知られており、青野社長が自ら育児休暇を取得したことでも話題になった。
 サイボウズのHP(http://cybozushiki.cybozu.co.jp/?p=8328)によると、同社では、育児や介護などに限らず、人生のライフイベントに合わせて労働者が働き方を選べるようになっているという。(下図参照)

 どの程度働くことができるか(どの程度労働以外の時間が必要か)は、人によって異なるから、一律に「早く帰りましょう」というのではなく、労働者一人ひとりが、自分の状況にあわせて働き方を選ぶというのは合理的なやり方だろう。実際の選択がどうなっているか、また、それぞれのコースの給与や昇進などの運用の実態をもう少し詳しく調べる必要はあるが、少なくとも、そうしたコースを設けることで、その人がどのくらい働けるのかということが明確になるという点でメリットがあるように思う。

 こうした同社の仕組みについて、青野社長は次のように述べている。
ワークライフバランスで僕たちが気をつけているのは、「こういう働き方をしなさい」「家庭を大事にしなさい」「残業しないでください」と言い過ぎないようにしていることです。今さら新しいルールを当てはめているようで、むしろ多様性を失っているように感じるからです。
 サイボウズの場合、「残業してもいい、しなくてもいい」「育児休暇をとってもいい、とらなくてもいい」「何時に来てもいい、いつ帰ってもいい」という選択制をとっています。でも、こうなった瞬間に「僕はどうすればいいんですか」という人も出てきます。これまで朝8時に来いと言われれば、何も考えなくてよかった。日本人はずっとそうやって働いてきたんです。
 僕は自分で働き方を選ぶ“自立”を重んじたいのです。ワークライフバランスの答えは一つではなく、答えは一人ひとりが見出してくださいという立場です。』
――「仕事ができる人の働き方とは?」(http://toyokeizai.net/articles/-/26387

 これはまさにその通りだと思う。特に興味深いのは、柔軟な働き方を導入した瞬間に、自分はどうすれば良いのか分からないという人が出てくる、という点である。「これまで朝8時に来いと言われれば、何も考えなくてよかった」というのは、これまでの働き方がいかに画一的だったか、ということを表しているが、同時に、そうした画一的な働き方を労働者の側も受け入れていた、ということを意味している。
 この点は、働き方の見直しを考えていく上で重要なところであると思う。関連する話として、日本では、労働者が自らのキャリア形成に対する意識が希薄である、と言われていて、「人事部は自分のキャリアを全然考えてくれない」というぼやきに象徴されるように、いったん会社に入れば、その時々の働き方はもちろん、長期的なキャリア形成に至るまで、会社任せにしてきたというのがこれまでの実態であったと思う。それは、労働者にとってみれば、自律的な働き方が困難であったという一方で、会社に委ねていればある程度のキャリアと処遇が保証されていた(少なくとも労働者はそれを期待していた)、ということであったのだろう。

 サイボウズの例のように、労働者が自ら働き方を選べるということは、その反面、選んだ働き方について責任があるということであり、将来のキャリアプランも含めて、自分がどのような働き方をしていくのかということを、労働者一人ひとりが考え、決定していくことが求められることになる。「多様で柔軟な働き方」を認めていく場合、実際にどういった働き方をしていくのかは基本的に労働者が決めることになるから、こうした働き方を広めていくためには、会社側にそのような仕組みを整備していくことにあわせて、労働者の側にも、自分の働き方を自分で決めていくという準備が必要だろう。