児童福祉の現場から① 〜子育ての大変さ〜

 大分県では、24時間365日、いつでも子育てに関する相談をフリーダイヤルで受け付ける「いつでも子育てほっとライン」という電話相談を実施している。そうした電話に寄せられる相談内容を見ていると、いかに子育てに悩み、苦労している親が多いかということに驚かされる。虐待をしてしまいそうだという深刻な相談から、子どもが言うことを聞かなくて困っているという相談、果てはミルクの作り方が分からないという相談まで、実にさまざまな相談が寄せられている。平成23年度の相談件数は2,359件。児童相談所に直接かかってくる相談件数とあわせると、年間で3,000件を超える。子育てに悩んでいても、実際に電話をかけてくる人は一部であることを考えれば、一体どれほどの人が子育ての悩みを抱えているのかと思う。

 一方で、多くの人が子育てに悩んでいるわりには、子育ての大変さというものが、意外に社会から理解されていないのではないかと感じる。「子育てで悩んでいる」と周囲に言っても、「自分も大変だった」、「良くある話だ」、「まあ最後は何とかなるものだ」という具合で、その人の苦労や悩みが本当に伝わっているのか疑わしい。子育ては多くの人が経験しているものの、実際には何とかなることが大半なので、かえって本当に困っている人の苦労が伝わりにくいのだろうか。「思い出は美化される」というが、そのときは大変でも、後から振り替えると楽しい思い出になっているために、相談されても悩みを共有しにくいということもあるかもしれない。

 先日、こんな記事が出ていた。

「“イクメン”の暴走で亀裂が走る夫婦が増加中」:http://nikkan-spa.jp/365171
 (略)“イクメン役”を頑張りすぎて身を崩してしまう男性も増えているという。埼玉県を中心に家事サポートサービスを手掛ける「アイナロハ」代表の渡辺大地氏はこう話す。
 「僕がこのサービスを立ち上げたのは約1年前。当初は『もっと男性が育児参加をしよう』と訴えていくつもりだったのですが、いざ始めてみると状況は想定していたものと違いました。育児を頑張りすぎて自分がダウンしてしまう人が多かったんです。毎晩早めに仕事を切り上げて帰宅して土日は付きっきりで赤ちゃんの面倒をみたり、『男の家事は料理だ!』と張り切って突っ走ったり。でも実は、奥さんがしてほしいのは掃除だったり買い物だったり、人によってさまざま。だから、奥さんの産後のイライラも重なって、意見の違いから喧嘩したり。ちょっと暴走ぎみにイクメンを頑張った挙句、自分の体がもたなくなってしまうんです」
 ひどいケースだと、旦那さんが“産後うつ”になってしまうこともあるという。(略)

 また、現在、半年間の育休中の知人が書いている育休ブログ(「いいちゃんの「ただいま育休中!!
~Beppu Fathering Life 3~:http://beppufatheringlife3.blogspot.jp/#!/2012/11/0891142611527.html)では、育休1か月にして全身蕁麻疹と発熱におそわれた彼が、以下のように書いている。

 昨日は妻に助けてもらった。
 育児家事疲れの僕の、手の指の先から足の先まで全身をマッサージしてくれた。
 体全体が重く疲れがたまっていたので、「指圧とかマッサージを受けに行ってみようかな〜」と話をしたら、代わりしてくれた。
 布団に横になりマッサージを受けながら、妻からケイスケの時の出産、育児の苦労話を聞いた。
 僕にとっては耳の痛い話だったけど、今の状況では、素直に「申し訳なかったな〜」と反省できる。
 一人目のケイスケが生まれた時は、僕は出産前の休暇は取らず、出産後も妻が産婦人科を退院する間の数日だけ休暇を取ったのみ。
 産婦人科ではベッドに横たわる妻の横で、おしゃべりしたり、来客対応したり、本読んだり、眠ったり…と、特別、パパになったが、パパらしいことをする機会もなく、出産関連の休暇を過ごした。
 出産後の妻は1ヵ月ほど実家にいたが、すぐに自宅に戻ってきて3人の生活をスタートさせた。
 僕はパパとしての多少の気持ちの変化はあったが、それまでの生活スタイルはさほど変えることなく、時には飲み会で最終電車で遅く帰ってくるなど、もちろん悪気なく過ごしていた。
 しかし、当時の妻は初めての出産、一人での育児に色々と戸惑い、疲れ切っていた。
 なかなか上手におっぱいを飲んでくれない赤ちゃん、なかなか泣き止まない赤ちゃん、自分のことは全て後回し…。
 体調を崩し、体には痒みを伴う赤い斑点が出ていたそうだ。
 育児家事の疲れがたまって、自律神経が弱っており、体に色々と影響がでていたようだった。
 妻は当時を振り返り、「産後うつ状態」だったという。
 妻は当時も僕に色々と、体の不調のことや育児家事がとても大変だということを話したようだが、ヒジョーに申し訳ないが、僕の記憶にない…。
 マッサージを受けながら、「あんまり記憶にないんだよね…」って言うと、 「そんなもんよね〜、でも今ならわかるでしょ〜」っと、一言。
 再び、「ほんとに申し訳なかったね…」とマッサージを受けながら、謝る僕…。
 極めつけは、「そんな弱っている私に対して、『早く二人目の子どもが欲しいよね〜、作らないとね〜』って言ってたわよね〜、でもそう言われたって、そんな状況じゃなかったわよ!!!!」だって…。
 ギャー、すみませんでした…て感じ。
 妻からの全身マッサージを受けて、疲れも癒え、落ちていた気持ちも上がってきた!
 「笑っているパパ」になるために、さぁ、育休頑張ろう!

 (ちなみに彼は、今ではすっかりペースを掴み、いい感じの育休ライフを送っている。ブログもぜひご覧ください。)

 近年、児童虐待の相談対応件数が増加を続けており、行政としても、相談体制の整備や地域での見守りの充実などに取り組んでいるが、それでも悲惨な児童虐待事例が後を絶たないのは、子育てがいかに大変かということが、社会できちんと共有されていないことが根本にあるような気がしてならない。