新・働き方を見直す4 〜働き方のビジョン その3〜

(前回からの続き)
 「ここ一番」の期間の子育てをどうするか。まずは、夫婦で分担するのが基本だろう。「ここ一番」の期間を夫婦でうまくずらすこと、つまり、夫が「ここ一番」のときには妻が育児(・家事)をし、妻が「ここ一番」のときには夫が育児(・家事)をする。そういう形で夫婦間でやりくりすることができることを目指してはどうか。
 こうした働き方を実現するためには、夫婦で同じ会社に勤めていない限り、自分の会社だけでなく、社会全体で子育て中の労働者に対する理解と協力が必要になる。
 また、「ここ一番」の時期は、例えば月末とか決算期といったようにあらかじめ予測がつく場合もあれば、トラブル対応のように突発的に発生する場合もあるだろう。突発的な場合はもちろんだけれども、あらかじめ予測がついても、夫婦でその時期が重なることもあるだろうから、そういう場合にどうするか。実際には、こうした場合、夫婦の親、つまり子どもの祖父・祖母に頼るというのが典型だと思うが、そうした助けが得られない家庭のためにも、本当に必要なときに限って深夜まで預かる公的なサービスがもっと活用されても良いと思う。現在でも、「トワイライトステイ」という公的な事業があるが、児童養護施設での預かりが中心ということが心理的な壁になっているのか、あまり利用はされていないように思う。

 もっとも、あまり深夜まで預かるサービスの使い勝手が良くなると、常態的に子どもを深夜まで預けようとする人が出てくる懸念がある。以前、保育所の先生から、長く預かると保護者の支援には繋がるけれども、そうすると毎日遅くまで預けようとする人が必ず出てくるので、子どもにとって何が良いのかを考えると悩ましいという話を聞いたことがある。「弾力的な取扱い」として行っているうちは良かったが、それを制度化した途端に、本来使ってほしい対象でない人が主な利用者になってしまう、というジレンマがある。

 話を戻すと、長時間の預かりを常態化させないためにも、「ここ一番」の期間をできるだけ限定することが大切だ。これは自分の経験に照らしてみても、労働者の努力である程度実現が可能であると思う。だらだら働く、とは言わないまでも、長時間労働が常態化している職場だと、どうしても早く帰ろうという気持ち自体が薄れてくる。何時までに帰ろう、一刻も早く帰ろう、と毎日意識していると、ある程度は早く帰ることができるようになる。ワーキングマザーの生産性が高いという話はそれを如実に表している。
 
 ということで議論をまとめると、子育て期の働き方のビジョンとしては、夫婦で長時間労働が常態化しないようにメリハリをつけて働き、「ここ一番」で残業が必要なときにはパートナーがカバーする、それでもどうしてもカバーしきれないときのために、可能であれば両親の力を借りるか、トワイライトステイなどの公的サービスを活用する、という形になる。
 
 これまでの日本では、高度経済成長期に一般的になった専業主婦モデルのもとで、男性は会社に尽くして無事定年を迎えることが、また、女性はそうした男性を「内助の功」で支えることが「働き方のビジョン」として社会的に共有されていた。今起きていることは、こうした典型モデルが崩壊し、人々のライフスタイルが多様化した結果、どういう働き方を目指すのかという「働き方のビジョン」を社会的に共有することが難しくなっている、ということだ。
 しかし、目指すべきビジョンが共有されなければ、何をすべきかも分からない。ライフスタイルが多様化しているからこそ、ビジョンを共有することが大事だ。そうでなければ、対策が一貫性を欠くパッチワークになってしまうだろう。「多様で柔軟な働き方」という抽象論をさらに深掘りした、望ましい働き方についての議論が必要だと思う。