不思議な感慨

 ジョギングを走り出すと、わずか5キロの距離でも、先の道のりを考えて、まだこんなにあるのか、といつもうんざりする。でも、そんなことを考えつつ走っていくうちに、いつの間にか半分が過ぎ、気づけばゴールまであと少し、というところまで来ている。どんなに遅くても、前に進んでいれば、いつかは必ずゴールできる。仕事も人生も同じだなあと、ジョギングをすると毎度のことのようにそんなことを考える。

 先日、別府−大分間を走る「別大マラソン」があった。ちょうど、家の前の道路がコースになっていたので、沿道から声援を送った。そこはスタートから40キロくらいの地点で、ゴールまであと少しというところ。苦しそうに顔をゆがめる選手、飄々と走っていく選手、体を少し傾けながら走っていく選手・・・それぞれスタイルは違うけれど、皆一様に、最後の力を振り絞り、ゴールを目指して走っていく。

 別大マラソンの参加者は約3000人。トップが通過してから、最後のランナーが通過するまで、およそ1時間半かかる。だから、トップが通過してしばらくすると、沿道で応援する人もだんだん減ってくる。私も、トップの選手を見送ってしばらくしたら、家に帰ろうと思っていた。ところが、東京から知り合いの先輩が出場しているのを知り、せめて、その先輩に声をかけてから帰ろうと思い直し、しばらく応援を続けることにした。

 目の前を、次々とランナーが走り抜けていく。先輩を見逃すまいと、ゼッケンばかり見ていた私は、不意に、不思議な感慨にとらわれた。なぜ、この人たちは、こんなにも一生懸命に走るのだろう。それぞれに忙しい仕事を抱え、わざわざ東京から飛行機に乗ってやってきて、明日からは、また仕事に戻っていく。そこまでしてなぜ走るのか。そんな疑問を感じているうちにも、続々とランナーがやってくる。見れば、そのランナーの列は、はるか後方まで、途切れることなく続いている。ここまでの距離は40キロ。ということは、ここを通過するすべてのランナーは、既に40キロを走ってきているということだ。何という圧倒的な光景であることか。

 自分で走れば5キロでもうんざりするのに、42キロも走ろうというのは、一体どんな気持ちなのだろう。フルマラソンを走るランナーでも、走り始めは、やはり先の道のりを思ってうんざりするのだろうか。そう思って見れば、トップの選手はともかく、後半の選手のペースは、思ったほど速くはない。むしろ、こんなペースで一体何時間かかるのだろう、というスローペースである。それでも、前に進んでいる限り、いつかはゴールする。そう信じて走り続けたからこそ、現に40キロ地点まで到達しているのだ。42キロを走りきる体力ももちろんすごいが、それ以上に、地道に走り続ける精神力がすごいと思う。

 その日の夜、いつものジョギングを始めた私は、はじめて、コースを2周したのだった。