児童福祉の現場から⑤ 〜保育ニーズの把握〜

 前回、待機児童数の数え方が自治体によってまちまちであることや、その結果として保育ニーズの把握が的確に行われていないのではないか、という点について述べた。
 今回は、その保育ニーズの把握が、新しい制度の中で今後どのようになっていくのかという見通しを書きたい。

 子育てに関する国の制度が、今、大きく変わろうとしている。かつて子ども・子育て「新システム」と呼ばれていた、子ども・子育て支援に関する新しい仕組み(「子ども・子育て支援新制度」)は、昨年夏の国会で法案が成立し、早ければ平成27年4月からの本格施行を目指して準備が進められている。この新制度においては、就学前の教育・保育を充実するため、認定こども園の推進や小規模保育の充実など、さまざまな内容が盛り込まれているが、新制度の大きな狙いの一つが、保育ニーズを的確に把握することにある。

 新制度のもとでは、まず、子どもごとに保育の必要性の認定が行われる。介護保険と比較すると分かりやすいが、介護保険で言うところの「要介護認定」のようなものだ。いわば、「要保育認定」である。詳細はまだ検討中であるが、例えば、両親がフルタイムで働いていれば「要長時間保育」、パートタイムであれば「要短時間保育」、専業主婦家庭であれば「保育認定なし」といったように、保育の必要量に応じた認定がなされる。そして、認定の内容を記した認定証が交付され、その上で、保育の認定を受けた子どもが、保育所や幼稚園で保育などのサービスを受けた場合、認定に応じた金額が施設に支払われる。これも介護保険と同じだ。

 この仕組みのミソは、「保育の必要性の認定」という手続きを独立させたことだ。現在の仕組みでは、保育に欠けるかどうか(=保育ニーズ)という判定と、保育所に入れるかどうかの決定が同時に行われているため、どうしても、結論である保育所に入れるかどうかという点に力点が置かれ、その前段としての保育ニーズの把握が十分行われていない傾向があった。それを、新しい制度では、「保育の必要性の認定」という手続きを取り出すことで、保育ニーズの把握を独立して行うということになっている。

 この点について、国会では、小宮山厚生労働大臣(当時)が、以下のように答えている。
 山本香苗君
 それでは、子ども・子育て三法案についてお伺いしますが、保育所に子供を預けるに当たっては、まず保護者が市町村の窓口に行って申し込んで、そして市町村が保育に欠ける児童かどうか判断して保育所を決めると、これが現状ですね。修正案におきましては、市町村に申し込んで市町村が保育所を決定すると、これは同じなんですけれども、その際に、市町村が客観的な要件に照らして保育が必要な児童と認定する手続というのが必要となっております。
 この新たな仕組みに変わることによって何がどう変わるのかと。既に保育所にお子さんを預けておられる方々、また、これから預けたいなと思っていらっしゃる方々に分かりやすく御説明いただけますか。

 国務大臣小宮山洋子君) 
 これまで、保育所に入る子供たちの保育に欠ける要件をどうするのかというのは、もうずっと十年来あるいはそれ以前から議論をされていたところですけれども、これまでは保育に欠けるという判定と保育所へ入れるかどうかの決定が同時に行われるということだったので、さっき申し上げたように、地方の裁量によって受け入れる余裕がないときにはそれが受け入れられないという、しっかりと把握されていないという点がありました
 今回は、保育に欠けるということに代わって、子ども・子育て支援法に基づいて、入所判定とは独立した手続として、市町村が申請のあった保護者に対して客観的な基準に基づいて保育の必要性を認定をするということになりました。これによって、これまでどうせ受け入れてもらえないという諦めていた方も含めて、潜在的な需要が従来よりもかなり正確に把握できることになると思います。それで、保育所認定こども園、地域型保育事業など、計画的にその需要に見合ったものを整備をし、それに対して財政支援をきちんとするというような仕組みになります。(略)
  ――――平成24年7月25日参議院社会保障と税の一体改革に関する特別委員会会議録(抄)

 このように、「保育の必要性の認定」を客観的な基準に基づいて行うことにより、保育ニーズを正確に把握する、ということが明確に答弁されている。

 気になるのは、この「客観的な基準」のところだ。どのような基準によって、保育の必要性の認定を行うのか。例えば、祖父母が面倒を見られる場合はどうするか、求職中の取扱いをどうするか、「要長時間保育」と「要短時間保育」の境目は何時間の就労とするのか、など、詰めるべき事項はたくさんある。これらは今後の検討課題とされており、今年4月から国に設置される「子ども・子育て会議」で議論される。その資料は、内閣府のホームページで速やかに公開されることになっているので、要注目である。
 また、「客観的な基準」とあわせて、市町村における実際の取扱いがどのようになるのかも注目である。前回書いたように、例えば、求職中の場合の取扱いについては、厚生労働省の基準では「求職活動の状況把握に努め適切に対応する」となっているにも関わらず、実際の取扱いでは、一律に待機児童とする、もしくは一律に待機児童としないという、どちらにしても一律の取扱いがなされていた。今後、「保育の必要性の認定」が独立した手続きとして行われるようになって、認定証が出るか出ないか、ということになれば、個々のケースについて、保育の必要性の認定をよりきめ細かく行う必要が出てくるだろう。

 いずれにしても、今後、保育の必要性の認定が実際に始まれば、保育の必要性の認定を受けた子どもが何人で、そのうち保育所などに入っている子どもが何人、ということが明らかになってくる。その二つの人数の差が、保育の必要性があるのに保育所に入れない子ども、すなわち待機児童ということになる。その数字がどのくらいになるのか。今公式に発表されている数字とどのくらい違うのか。今後も目が離せない。