児童福祉の現場から⑥ 〜保育所 vs. 幼稚園〜

 以下は、保育所ステレオタイプ保育士(「保」)と幼稚園ステレオタイプ教諭(「幼」)との会話。

 保:幼稚園の先生は気楽でいいよね。仕事は2時までで、夏休みもあるし。
 幼:最近は預かり保育で夕方まで預かってるし、夏休み中も園を開けてるよ(※1)。それに、翌日の準備もある。何しろウチは教育機関だから。ただ預かってるだけの保育所と比べないで欲しいな。
 保:保育ってどういう意味だか知ってる?「養護+教育」を保育と言うって厚労省の指針に書いてあるよ(※2)。ウチの保育所にはピアノだってもちろんあるし、英語教育だってやってるよ。
 幼:まあ、教育的なものをやっているのは認めるけど、問題は中身だよね。幼稚園の先生は、研修もしょっちゅうある(※3)し、担任制でしっかり教えてる。カリキュラムだって、年単位、月単位、週単位で細かく計画的に作ってるよ。第一、幼稚園には「建学の精神」ってものがあるんだ。
 保:保育所だって、指導計画を作ってるよ。だいたい、カリキュラムっていうと、何だか立派に聞こえるけど、計画ばかりで子どものことをちゃんと見てないんじゃないかな。保育所には、いろいろなご家庭の子どもが来る。恵まれた専業主婦家庭の子どもばかり来る幼稚園とは違うよ。「建学の精神」もいいけど、手のかかる子どもを断る理由になってないかな(※4)。
 幼:だから最近では延長保育もやってるし、共働き家庭の子どもだってたくさん来てるんだって。発達障がいのある子どもだってもちろんいる。この前だって、お母さんに発達支援センターに行ってみないかと説得するのに大変だったんだ(※5)。
 保:そちらから保護者支援の話が出てくるとは意外だな。親支援は保育所の専売特許だと思っていたけど。
 幼:幼稚園だって子育て相談をやっているよ(※6)。ウチでは大学の先生に週1回来てもらってる。でも、保育所は赤ちゃんがいるから、そのあたりは大変そうだね。
 保:最近は親の子育て力が落ちてるよね。ミルクの作り方が分からないという親がいてびっくりしたこともある。園としても、小さい子が多いから、事故や怪我にはとても気をつかってる。ちょっとでも怪我をさせたら、ものすごい勢いで怒鳴り込んでくる親もいるから。。。
 幼:保育所は過保護だなあと思うことがあったけど、そういう理由もあるんだね(※7)。まあ、大変な親がいるのはウチも同じだけど。
 保:親も大変だけど、子どもも大変。最近は、特に手のかかる子どもが増えてる気がする。手がかかるからといって保育士が増えるわけでもないし(※8)。。。
 幼:それはウチも同じ。発達障がいの研修があればいつも参加してる(※9)。幼稚園は担任制だから、人繰りにいつも苦労しているよ。
 保:確かに幼稚園は先生が少ないよね。人が少ないから育休も取れないって話を聞いたことがある(※10)。
 幼:ウチの園は育休どころか恋愛禁止(※11)。AKBじゃあるまいし。。。
 保:恋愛禁止! それはさすがにひどいねえ。
 幼:でも、こうやって話してみると、幼稚園と保育所って意外に似てるねえ。
 保:かつては、幼稚園は専業主婦家庭向け、保育所は共働き家庭向け、という感じだったけど、最近は、幼稚園でも預かり保育を充実しているし、保育所でも教育に力を入れているから、実態としてはかなり近づいてきているのかもね。
 幼:確かに。考えてみれば、ほとんどの先生が保育士と幼稚園教諭の両方の資格を持ってるわけだしね(※12)。
 保:もっと現場レベルでの交流が必要だね(※13)。
 幼:うんうん。今日は話せて良かったよ。これからもよろしく!

 ※ この物語はフィクションであり、毎回このようにうまくいくとは限りません。


※1 預かり保育をしている幼稚園の割合:81.4%、夏休み中に預かり保育をしている幼稚園の割合:74.7%(平成24年度幼児教育実態調査(文部科学省))
※2 保育所保育指針(厚生労働省告示第141号)では、「実際の保育においては、養護と教育が一体となって展開されることに留意することが必要」とされている。
※3 幼稚園の新規採用教員研修の状況:園内9.0日、園外8.8日(平成24年度幼児教育実態調査(文部科学省))。保育所の研修の日数に関するデータは見当たらないが、筆者の実感としては、幼稚園の方が保育所よりも研修の機会が多いような気がする。
※4 保育所は、市町村から保育の委託を受けたときは、正当な理由がない限り拒んではならない、とされている(児童福祉法第46条の2)。一方、幼稚園は、保護者との直接契約となるため、制度上、選考の自由がある。
※5 筆者が実際に幼稚園の延長から聞いた話。
※6 子育て支援活動をしている幼稚園の割合:86.6%(平成24年度幼児教育実態調査(文部科学省))
※7 データはないが、筆者の実感としては、保育所の方が安全面の管理がしっかりしている一方で、幼稚園の方が怪我を恐れずに思い切って遊ばせる傾向が強いような気がする。
※8 障がい児保育への加算は、市町村によって異なるが、保育所からは加算が不十分という声が強い。障がいが疑われても、きちんとした診断が付かないと、加算の対象とならないという点がネックになっている場合もある。
※9 大分県では、保育所、幼稚園、小学校などの職員を対象にした発達障がい者支援専門員研修を実施しているが、毎年、定員を大幅に上回る応募がある。
※10 幼保連携型認定こども園認可保育所+認可幼稚園)の園長から、施設が一体になることで職員のローテーションが可能になり、幼稚園の先生も育休を取ることができるようになった、という話を聞いたことがある。
※11 筆者の娘がかつて通っていた幼稚園では、先生の恋愛禁止が父母の間で知れ渡っていた。
※12 現職では7割〜8割、新卒では8割〜9割が、保育士と幼稚園教諭の両方の免許を持っているとされる。(内閣府「平成22年10月14日第1回幼保一体化ワーキングチーム参考資料」より)
※13 大分県では、平成24年度から、幼稚園、保育所認定こども園、認可外保育施設の職員が一同に会した合同研修会を実施している。参加者からは、「保育士と教諭では、子どもの視点の幅が違うと感じた」、「幼、保など様々な団体が入っているので、色々な話が聞けてよかった」、「同じような課題を抱えていても、施設、公私ごとに解決策が違うが、可能なことはどんどん取り入れたい」といった前向きな声が多かった一方で、「意見は色々と聞けたが、公立私立では違うので、自園の解決にはならない」といった意見もあった。トータルの「参考になった率」(アンケートで「大変参考になる」、「参考になる」と答えた人の割合)は、97.9%と極めて高かった(延べ186人中182人)。