アウトリーチ

  アウトリーチとは、英語で、「手を伸ばす、届かせる」といった意味の単語であり、福祉の世界では、「訪問型の支援」をあらわす言葉である。福祉制度は、生活保護に代表されるように、基本的に「申請主義」の建て前を取っているから、福祉サービスを受ける人が、自ら役所の窓口に来ない限り、サービスを受けることはできない。ところが、例えば引きこもりであったり、引っ越したばかりで地域から孤立していたりしていて、窓口に来られない人たちがいる。こうした人たちにも支援をするために、行政やNPOの方から、支援する方の住まいに出向いて支援を行うのが、アウトリーチ(訪問型支援)と呼ばれる手法である。

 この手法が最近注目されているのは、核家族化や高齢化の進展などにより、地域で支え合う力が弱くなり、地域で孤立している人が増えてきているためだ。これまでは、仮に家に引きこもっていても、家にやってきて世話を焼いてくれる“世話焼きおばさん”のような人がいて、地域の支え合いが行われていたのだが、そういう人たちがいなくなって、支援が行き届かないという事態が増えてきた。だから、支援を求めてやってくるのを待つのではなく、こちらから出かけていくというアプローチが求められるようになっている。

  児童福祉の分野においても、これまで、保育所子育て支援拠点などの“拠点”を整備してきたが、拠点が整備されてくると、今度は拠点に来られない家庭への支援が課題になってくる。子どもの虐待のケースをみると、その家庭が引っ越したばかりであったり、母親が病気がちであったりして、地域で孤立していた、という事例が多い。家に引きこもりがちになるのは、こうした理由のほか、多子や多胎児(双子・三つ子)の場合、子どもに障害がある場合、外国人の場合などがある。超高層マンションに住んでいると、外出の頻度が減るという調査もある。あるいは、他人との関わりあいを持ちたがらない親の場合、ほかの子どもがいない朝早くや夜に、自分の子どもを連れて公園に行くという話もある。

 こうした人たちに、どうやって必要な支援を届けていくのかが課題だ。上に書いたように、“拠点”で待っているだけでは、引きこもりがちの家庭は来てくれないから、訪問型の支援が必要になるのだが、訪問するにしても、どこに支援が必要な家庭がいるのかが分からなければ、訪問のしようがない。適切に訪問支援を行うためには、どこにどういう家庭がいるのか、ということをあらかじめ把握しておく必要がある。“消えた高齢者問題”のときも、高齢者がどこに住んでいるのか分からない、という問題があったが、地域の力が低下している中で、誰がどこに住んでいるのかを、どうやって把握するかということが、福祉の世界では重要なテーマになってきている。

  地域のどこに、どんな子どもがいて、どういう状況で子育てがされているのか。それを把握するためには、残念ながら決定的な方法はなく、地域の力を総動員するしかない。例えば、乳児期の赤ちゃんがいる全家庭を保健師が訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」という事業がある。あるいは、1歳半児健診、3歳児健診もある。こうした点では、地域の保健師が一つの鍵となっている。そのほか、地域の子育て拠点に来ていたが、最近顔を見ないな、ということがあれば、訪問してみるという方法もある。産婦人科や小児科で情報がある場合もある。生活保護を受けていることもあるかもしれない。
 このように挙げていくと、何らかの形で情報がある可能性は高いようにも見えるが、その情報が、さまざまな個人・機関に分散しているため、全体像の把握が難しい。そもそも、保健師は保健の観点から、保育士は保育の観点から、生活保護ケースワーカー生活保護の適正支給の観点から、それぞれ家庭を見ているから、知りたいと思っている情報が異なっている。このため、例えば、生活保護ケースワーカーが家を訪問しても、虐待に気づかないということもあり得る。個人情報の問題もある中で、こうした情報を、どうやって集約し、誰が管理するか、ということが課題だ。

  こうした課題に、どう対応しているのか、また、稿を改めて書きたい。(つづく)