送り出勤のススメ

  私は、(周りからはそう見えないかもしれないが、)自分では、精神的な耐性がそれほど強い方ではないと自覚している。比較的割り切ってモノを考える方ではあるが、仕事で嫌なことがあったり、失敗したりすると、後から思い出してストレスを感じることが多い。また、気になることがあると、休みの日でも、ずっと気にかかってしまうタイプだ。
 だから、3年前の春に、法律改正を担当したときは、精神的にかなり追い詰められた。もともと、法律改正というのは大変な労力が必要であるが、そのときは、いろいろな経緯があって、通常2〜3か月かかる作業を、3週間でやらなければならなかった。作業をしているときは、自分では、精神的に追い込まれているという意識は、実はあまりなかった。ところが、終わってから、妻からは、夜にうなされているという話を聞き、上司からは、張り詰めていて声がかけられなかったと言われると、やはり、相当危ない状態だったのだろうと思う。

  激務のため、心の健康を損なう人が増えている。友人や知人が、メンタルヘルスを損なったという話を聞くのはとても悲しい。職場でも、早めに相談しましょうとか、一人で抱え込まないようにしましょうとか、メンタルヘルス対策はさまざまに講じられているが、一方で、期待されている、その期待に応えたい、という気持ちで頑張りすぎてしまう人の気持ちもよく分かる。そういう人に対して、「あまり深刻に考えない方がいいよ」と言っても、なかなか気持ちが楽にはならない。幸いにして、私の場合は、職場の人間関係がとても良かったので助かったが、もし変な上司が一人でもいたら、つぶれていたかもしれないと思う。結局、自分の身は自分で守る、としか言いようがないのだが、とはいえ、頑張りすぎてしまう人に対して、どうやってアドバイスをすればいいのか、いつも考えてしまう。

 そこで私がオススメしたいのが、タイトルの「送り出勤」だ。「送り出勤」というと、キャバクラに行くみたいだが、そうではなくて、これは、子どもを幼稚園などに送り届けてから会社に出勤する、という意味だ。子どもを迎えに行くのは、時間的になかなか難しくても、朝、子どもを送っていくのなら、何とか都合がつく。私の場合は、妻が専業主婦なので、必ずしも、私が送っていく必要はなかったのだが、今から思えば、送り出勤をして本当に良かったと思う。
  朝、子どもと手をつないで二人で歩いていると、とても気持ちが落ち着いてくる。仕事のことが頭をよぎっても、落ち着いて、その日のスケジュールを組み立てることができる。仕事がうまくいかなくてプレッシャーを感じているときでも、自分の世界は仕事だけではない、仮に仕事で失敗しても、子どもが元気に育っていれば、仕事の失敗なんて些細なことだ、と思えてくる。私にとって、子どもを幼稚園に送っていく時間は、とても貴重な「癒し」の時間だった。

 そんなわけで、小さいお子さんをお持ちの方には、ぜひ、この「送り出勤」をオススメしたい。実は、私も、第一子が産まれたときに先輩に勧められたのがきっかけだった。特に、帰りが遅くて、毎日、子どもの寝顔しか見られない、と嘆いているお父さんにはオススメだ。
  ―――そして私は、小学3年生になった娘を、今も、小学校に送ってから出勤している。もはや、子どものためというよりも、完全に自分のためだ。これは、子どもに嫌と言われるまで、続けようと密かに思っている。