働き方を見直す③ 〜本当は育児をしたかった団塊世代の父親たち〜

 前回の最後に、私が以前、企業のイクメン養成のための社内研修を見学したということを書いた。今回は、それを切り口に、イクメンの働き方の見直しをどうやって進めていくべきかについて考えてみたい。

  例として、私が実際に見学した、ある損害保険会社の社内研修を紹介したい。その会社では、人事部が、社内の若い男性社員を対象に、埼玉のNPOに委託をしてセミナーを開催していた。セミナーでは、父親が子育てに関わることの重要性や、子育て体験の共有、あるいは子育てにどのように関わっていきたいかという希望、また社内の制度などについて議論がされていた。営業の方が多かったせいか、和気藹々とした雰囲気で、とても楽しいセミナーだったが、私が一番印象に残ったのは実は冒頭の役員の方の挨拶だった(余談だが、こういう社員向け研修では、トップを巻き込む(教育する)という観点から、役員クラスに挨拶をしてもらうことが重要とのこと。)。

 その方は、営業担当の役員で、いかにも仕事一筋、「仕事の鬼」という感じのとても厳しそうな方で、挨拶なのに怒られるんじゃないかと思ったほどだった(すいません)。実際、その方の挨拶は、「肝心なときに家の中がゴタゴタしていたら、いい仕事なんかできない。育児もきちんとして、仕事をしっかり頑張ってほしい。」という風に始まり、やっぱり厳しいなあ、と思っていたところ、それに続く言葉は予想に反するものだった。「私がこんなことを言うのは皆さん意外かもしれないが、実は私も、もっと子育てをしておけば良かったと若干後悔している。皆さんはそういうことのないように、しっかり子育てをしてほしい。」

  私はかねてから、どうして昔の父親たちは子育てをしなかったのか、疑問に思っていた。自分の子どもがかわいいという感情が、世代が違えば変わるとは到底思えなかった。だから、その役員の方が、実は自分も子育てをしたかったのだ、と言うのを聞いて、そういうことかと得心した。我々の親の世代の父親たちは、高度経済成長のただ中で、ときには家庭を顧みずに仕事をすることを求められた。自分の稼ぎで妻と子どもたちを養うのが、「男の甲斐性」とされた時代だ。そんな状況で、子育てのために仕事を休むというのは、たぶん、カッコ悪いことだったのだと思う。要は、上の世代は、子育てをしたいのを我慢して仕事を頑張っていたのである。

 だからこそ、今の職場で「イクメン」の働き方を見直そうとするとき、上の世代の頭が固いからダメなんだといった、これまでの上の世代の働き方を否定するようなアプローチはすべきではないと思う。そうではなくて、本当は育児もしたかったけど、歯を食いしばって会社を支えてきた先輩方の気持ちを尊重し、感謝しつつ、では、今の若い人たちが置かれている状況が、かつてと如何に変わっているかということを丁寧に説明する必要があるのだと思う。冒頭に書いた「鬼の営業部長」(重ねて勝手にすいません)でさえ、実は育児をもっとしておけばよかったとチョッピリ後悔しているのだ。うまくアプローチできれば、決して活路がないとは思わないのだが、どうだろうか。(つづく)