働き方を見直す⑦ 〜プロジェクトX的な〜

 NHKの「プロジェクトX」は、仕事に一心に打ち込んだ人たちのドキュメンタリーだ。大きなプロジェクトを成し遂げるためには、必ずといっていいほど、さまざまな困難やトラブルが立ちはだかる。番組に登場する人たちは、それを、仲間と助け合いながら、超人的な努力によって乗り越えていく。そうした姿を見ていると、すごいな、うらやましいな、と思う反面、この人たちにとってのワーク・ライフ・バランスとは何だろう、と考えてしまう。

 番組で取り上げられるような、大きな仕事を成し遂げようと思えば、どうしても、寝食を忘れて仕事に打ち込むことが必要になる。深夜まで残業したり、ときには会社に泊まりこんだりして、仕事をすることも必要になるかもしれない。しかし、例えば、子育てをしながら働く女性の場合、こうした働き方をすることはできるのか。番組が、少し前のプロジェクトを多く取り上げているせいでもあると思うが、その出演者のほとんどは男性だ。

 「プロジェクトX」的な働き方をどう考えるか。それは、ワーク・ライフ・バランスを考える上で、とても重要なポイントであると思う。その理由は二つある。
 一つは、「プロジェクトX」的な働き方は、寝食を忘れて仕事に打ち込むという点で、ある意味「反ワーク・ライフ・バランス」的でありながら、一方で、番組を見て我々が感動するように、魅力的な働き方でもあるという点だ。実際、誰しも、仕事をする以上は、「プロジェクトX」までいかなくても、何らかの大きなプロジェクトに関わって、成果を出したい、と思うのではないだろうか。やりがいのある仕事に没頭することは、自己実現の一つの姿でもある。
 もう一つは、「プロジェクトX」的な働き方ができないから、女性は登用できない、という主張が、女性の社会進出を阻む中心的な議論であるという点だ。いざというときに17時に帰られたのでは、責任のある仕事は任せられない、という経営者の主張も確かに一理ある。

 これに対して、「仕事一辺倒の人生なんてつまらない」、「仕事がすべてなんて古くさい」といった反論は、あまり意味がない。なぜなら、「プロジェクトX」に登場する人たちは、仕事に一心不乱に打ち込み、成果を出し、現実に大きな充実感を味わっているからだ。こうした人たちから見れば、家庭が崩壊しているわけでもないし、なぜ仕事に打ち込んで悪いのか、ということになる。ましてや、上に述べたような経営者からすれば、それは経営方針の問題だ、ということになってしまうだろう。だから、働くことの意義や価値を否定するようなアプローチでは、この質問に正面から答えたことにならないと思う。

 「プロジェクトX」的な働き方を否定せず、ワーク・ライフ・バランスを実現することは可能なのか。難しい問題だが、以下、私の考えを書いてみたい。
 仕事に打ち込むことには価値があるし、ときには寝食を忘れて仕事に没頭しなければならないときがある。だが、それは常にではない。常に100%以上の力で仕事をしていたら、オーバーヒートしてしまう。だから、仕事に一区切りがついたら、早く家に帰って家事・育児や趣味をする。逆に言えば、仕事に打ち込む必要がないときまで、だらだらと会社にいないようにする。よくあるパターンは、仕事が忙しいときに、会社にずっといることが習慣となってしまい、忙しくないときまで、惰性で会社にいるようになってしまう、ということだ。そうではなくて、帰れるときには早く帰る。一言で言うと、仕事にメリハリをつける、ということだ。そして、忙しい期間は、パートナーがフォローする。ここが大事だ。例えば女性の仕事が佳境を迎えるのであれば、そのパートナーの男性が、早く帰って保育園に迎えに行く。そうやって、夫婦で支え合うことで、子育てをしながら、質の高い仕事をすることが可能になるのではないか。

 以上が私の考えだ。仕事が忙しい時期が夫婦で重なったらどうするのか、とか、そんなに都合良くいくのか、とか、いろいろと反論もあるだろう。それでも、夫婦で支え合う、というのがベースになると思う。難しい問題だが、ワーク・ライフ・バランスを考える上では、この問題は避けて通れないと思う。これについては、引き続き考えていきたい。