働き方を見直す8 〜ワーク・ライフ・バランスという言葉〜

 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、世の中にだいぶ定着してきたように思うが、その意味するところは、人によってかなりばらつきがあるように感じる。内閣府の調査によると、平成23年の調査では、言葉の認知度としては5割を超えているが、「言葉も内容も知っている」と答えた人の割合は、約2割にとどまっている。



(出典:「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に影響を与える生活環境に関する意識調査」(内閣府))

 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉については、その定義について、さまざまな議論がある。例えば、「ワーク」に家事や育児などのアンペイドワークも含めるべきではないかというジェンダー論からの批判。あるいは、 「ワーク」も「ライフ」の一部なのだから、二つを分けて考えるのはおかしいのではないかという議論。いずれも興味深い論点を含んでいるが、私はむしろ、「バランス」という単語をどう解釈するか、ということが問題ではないかと思っている。
 ※少し前になされたものだが、佐藤博樹教授と御船美智子教授との対談は、「ワーク」と「ライフ」の選択可能性を巡る議論として大変面白い。詳しくはこちら。http://dl.dropbox.com/u/88984691/journal/jjrhe/pdf/71/071_01.pdf

 「バランス」というと、多くの人は、天秤のように、左と右が釣り合っている状態をイメージするのではないだろうか。つまり、「ワーク」(=仕事)と「ライフ」(=仕事以外の生活)が、フィフティ・フィフティの状態、というイメージである。ところが、「ワーク・ライフ・バランス」とは、必ずしも「ワーク」と「ライフ」が半分ずつになっていないといけない、というものではない。私の理解によれば、この概念は、職業生活を、日々の単位ではなく、何十年という少し長いスパンで見て、例えば独身時代は「ワーク」を重視するとか、子育て期には「ライフ」に重きを置くとかいったように、その人の置かれている状況に応じて、両者の均衡点は常に変わりうるものだ。また、そもそも人によって、その均衡点は異なるものであって、唯一絶対の「バランス」があるというものでもない。つまり、することもないのに早く家に帰ることが「ワーク・ライフ・バランス」ではないのである。だから、人によっては、「バランス」という単語を嫌って、「ワーク・ライフ・シナジー」とか、「ワーク・ライフ・インテグレーション」といった言い方を薦める人もいる。

 「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を、「ワーク」と「ライフ」をフィフティ・フィフティにしなくてはいけない、と誤って理解すると、「仕事はそこそこにしてプライベートを充実させよう」、といったように、働くことの価値を否定するようなメッセージを与えることになりかねない。ちょっと気になるデータがあるので紹介したい。



 これは、(株)明治安田生活福祉研究所が最近発表した資料であるが、これを見ると、若い世代ほど、社会貢献よりも自分の生活優先、仕事よりもプライベート優先、やりがいよりも収入重視、という結果になっている。そもそも、「仕事とプライベートのどちらを優先しますか」という質問自体が、やや間違った印象を与えかねない気もするが、それはとりあえず置いておいて、気になるのは、20代でプライベート優先という回答割合がもっとも高くなっている点だ。20代の場合、家庭や子どもを持っておらず、入社したばかりという人も多いと思われるが、その時期に「仕事よりもプライベート優先」と堂々と(かどうかは分からないが)答えられるのはどうなのか。若い人の意識が変わってきたのか、あるいは、昔からそうだったがそれが言い出しやすい環境になったということなのかは分からないが、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が、働くことの価値を貶めている、ということでなければよいがと、若干危惧している。