運動論的アプローチ

 先日、人材育成や組織づくりのコンサルティング会社を立ち上げた友人と飲む機会があり、大いに刺激になった。特に印象に残ったのが、組織文化やそこで働く人のメンタルモデルをどうやって変えていくかという、組織変革の方法論についての話だった。組織を変えるには、ビジョンを共有することが何よりもまず大切、ということだったが、今回は、組織を変えるためのアプローチの方法について考えてみたいと思う。

  彼の話を私なりに理解したところでは、組織を変えるためのアプローチには二つの種類があるという。一つは、目指すべき目標を設定し、工程表を作って、それに従って改革を進めていくという方法だ。これは、多くの組織で広く一般的に行われている方法だという。もう一つが、変えたい方向(望ましい方向)に動いている人に着目して、その人に働きかけることで、雪玉を転がすように変革の動きを大きくしていくという方法だ。これはあまり一般的ではないが、組織を変えていく上では有効なアプローチだという。
 この話を聞いて、後者のやり方は、運動論的なアプローチに近いと思った。少しずつでも、変わっているという実績を積み上げて、それを全体の流れにつなげていくという方法だ。目標管理による変革が上からの改革であるのに対し、このアプローチはより草の根的な、下からの改革であると思う。前者がマクロ的なアプローチ、後者がミクロ的なアプローチと言っても良いかもしれない。

  私は現在、省内の業務改善に関するプロジェクトチームに有志として参加しており、省内での「朝メール」(注)の試行実施などに取り組んでいるが、組織文化を変えることの困難さを実感している。組織文化というのは、必ずしも明文化されたものではなく、働く人たちの間で何となく共有されている認識のようなものであるが、毎日職場で働くうちに、それが再生産され、働く人の意識の中に強固に根を張っている。実態が目に見えないものだけに、何か文書を出せば変えられるというものではなく、どこにアプローチすればいいのかが見えにくい。いわばインターネットのような分散型のネットワークだと思う。
 (注)朝メールとは、その日の予定を、毎朝メールで班内、係内に送付することで、一日の予定をチームで共有する仕組み。「6時に帰るチーム術」(小室淑恵著、日本能率協会マネジメントセンター)などで紹介されており、ワーク・ライフ・バランス業界では比較的メジャーな手法だと思う。

  長妻元大臣は、役所文化を変える、ということを常々仰っていて、そのためにいろいろと指示を出したが、結果として役所文化は期待したほどには変わっていないような気がする。せっかく組織のトップが意欲を持っていたのに、その期待に応えられなかったのは残念だが、その一つの原因は、アプローチの仕方が、目標管理による上からの改革というやり方だったことにあるのではないか、と思う。日々どうやって働くかというのは、基本的に個々人がその都度決めているので、上からこうせよと言われても、本人が自発的に変えようと思わなければ、なかなか変化が浸透しない。その意味で、どう変えるか、ということももちろん大事だが、どうやって変えるか、というところにもっと知恵を絞る必要がある。
 「運動論的アプローチ」は、個別的アプローチであるために手間がかかるが、働く人のメンタルモデルを変えるには、地道にやっていくしかないのかな、とも思う。私の場合であれば、さし当たり、「朝メール」を積極的に使っている人にアプローチでもしてみようかと思っている。