影響力の強い人

 少し前のNHK「スーパープレゼンテーション」では、子どもがどうやって言葉を発するようになるか、という研究を紹介していた。それによると、子どもが言葉を獲得する過程では、子どもが耳にする言葉が、文章から文節へ、そして特定の単語へと短くなっていき、その繰り返しによって、その特定の単語を覚えるようになるという。例えば、「水」という単語を子どもが覚える場合、始めは、周囲の大人たちが、「のどが渇いたから水が飲みたいの?」という会話をしており、その次に、「水が飲みたいの?」といった問いかけになり、最後は「水?」という単語になって、それが繰り返されることによって、やがて、子どもが「水」という単語を発するようになる。そして、子どもが「水」という言葉を発することができるようになると、今度は、周囲の大人が、少しずつ長い語数で語りかけるようになることによって、子どもが長い言葉を覚えていくという。

 ここでポイントとなるのは、子どもが言葉を覚える過程では、周囲の大人たちが、無意識のうちに語りかける言葉を調整して、子どもが言葉を覚えるように誘導している、ということだ。子どもが言葉を発するようになるというと、子どもの中で何が起きているのか、ということに意識が向きがちだが、実は、変化が起きているのは、子どもではなく、むしろ大人たちの方なのだ。確かに、私自身の子どもたちの場合を振り返ってみても、単語レベルでの問いかけから始まって、やがて2語、3語といった言葉で語りかけていたように思う。子どもにテレビドラマを見せているだけでは、なかなか言葉を覚えないのも、そう考えると合点がいく。

 「人を変えようと思ったら、まず自分が変わらなければならない」というのは良く聞く言い回しだが、子育てというのは、それをまさに体現していると思う。子どもは本当に自分勝手で、理不尽な行動をたくさんするが、それを正していこうと思えば、単に頭から叱りつけるだけでは決してうまくいかない。子どもは親の背中を見て育つ。不思議なことに、真似してほしくない癖ばかり真似をする。子どもと目線を合わせつつ、ほめたり叱ったりしながら、親自身が子どもと一緒に成長していくことが必要だ。

 どこの世界にも影響力の強い人というのはいるものだが、周囲の人たちを変える力を一番強く持っているのは、何といっても子どもではないだろうか。

※NHK「スーパープレゼンテーション」で紹介されたTEDの動画
http://www.ted.com/talks/deb_roy_the_birth_of_a_word.html