意識の重要性

 前々回のエントリー(「ビールゲームの衝撃」)で、思い込みがいかに危険かについて書いた。ビールゲームを体験してしばらく経って、改めて、思い込みを含めた、(潜在)意識の重要性について考えるようになった。

下の図は、ビールゲームを体験した勉強会で配られた資料の一部である。

※出典「チェンジエージェント」ホームページ:http://www.change-agent.jp/news/archives/000031.html

これは、「氷山モデル」と呼ばれるもので、「システム思考」の基本的な考え方を表したものだとされている。このモデルによれば、実際に我々が目にする「できこと」は、氷山の一角であり、その下には、より本質的な要素が隠れている。「できごと」の下にあるのは「行動パターン」である。すなわち、「行動パターン」が「できごと」を引き起こす。そして、「行動パターン」の下にあるのが「構造」で、これは、特定の「構造」が、特定の「行動パターン」を生み出すことを示している。「ビールゲーム」をやると、誰がやっても同じ結果になってしまう、というのは、まさにこれだ。さらに、「構造」を生み出す背景として、「意識・無意識の前提」がある。つまり、このモデルでは、「意識・無意識の前提」が一番下にあって、その上の要素に影響を及ぼしている、ということになる。

私は以前、省内の業務改善プロジェクトチームに参加し、職員の働き方の見直しに取り組んでいた。しかし、働き方を変えるのはなかなか容易ではない。例えば、20時までに帰りましょう、とか、会議は30分以内にしましょう、と呼びかけても、最初のうちこそ多少は効果があるとはいえ、やがて、元の水準に戻ってしまう。
なぜか。システム思考では、これは、働く人たちの(潜在)意識が、「どうせ20時に帰れるはずがない」、「会議が30分で終わるはずがない」と考えているからだ、という。当事者の意識が変わっていないと、何らかの方法で一時的に変わったとしても、やがて時間が経つと、当事者の意識の水準に戻ってしまう、というのだ。

我々の行動は、我々の(潜在)意識によって規定されているのだから、意識が変わらなければ行動が変わらず、結果として、目に見える「できごと」も元に戻ってしまうというのは、なるほどその通りだと思う。だからこそ、物事を変えようと思ったら、「できごと」に着目するのではなく、そのずっと下にある、人々の「意識・無意識の前提」に目を向けるべきだ、というのが、システム思考の教訓の一つだ。

この考え方を敷衍していくと、働き方の問題だけでなく、実は、かなりの事柄に当てはまる。先日、NHKで、30代の若者10人が討論する「ニッポンのジレンマ」という番組があり、日本の政治はなぜ変わらないのか、どうやったら変わるのか、といったことについて議論していた。これを、システム思考の立場から考えれば、なぜ、政治が変わらないのか、それは、人々が政治が変わると思っていないからだ、ということになるのではないか。つまり、政治を変えるためには、人々が、政治が変わるということを、真に信じられることが必要であり、そのために何をするべきかを、考えることが必要なのだと思う。

−−−自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えている−−−1997年のアップルコンピュータのコマーシャルだ。↓

  自分が世界を変えられると本気で信じる人たちを、いかに増やしていくことが出来るか、それが社会を変えていくことの鍵だと思う。