働き方を見直す①

  働き方をどうやって見直していくか。それが私のライフワークの一つだ。
 今の日本人の働き方は、みんなが「何か違う」と思いながら働いているのではないか。心や体を壊してしまうような働き方を余儀なくされている人がいる一方で、せっかく意欲や能力があっても、それを十分に発揮できない人もいる。子どもの寝顔しか見られないと嘆く父親の側で、仕事と子育てとの両立に疲れ切った母親が倒れている。

  日本人の働き方は、終身雇用・年功賃金・企業別労働組合の「三種の神器」が特徴であると言われている。こうした働き方は、高度経済成長期に形成されたとされる。農村部から都市部に大量の労働力が流入し、核家族化が進展した。ベビーブームとあいまって、「男は外で働き、女は家を守る」というモデルが一般化した。企業においても、男性を中心とした正社員は、手厚い雇用保障や企業内訓練により企業の中核を担う労働者として育てられ、労働者もときには家庭を犠牲にしてまで頑張って働くことでそれに応えた。一方で女性はOLとしてお茶くみなどの事務作業をこなしながら、時期が来れば寿退社をして夫を支えるのが「内助の功」とされた。会社も正社員の福利厚生の一環として社内結婚を積極的に勧めた。国も配偶者控除社会保険の被扶養者制度を通じてこうした仕組みを支えた。
 こうした働き方は、全体として完成された一つのパッケージとなっており、しかも、経済成長が続く中である意味効率的でもあったため、成功体験として強固に定着した。それは一つのシステムとして、法制度だけでなく、雇用慣行・慣習や働く人たちの意識にまで深く浸透した。

 やがて高度成長が終わって社会・経済状況が変化した結果、人々の働き方に対する意識も変化した。家庭を顧みず会社に全てを捧げようと思う人は少なくなった。子どもを産んでも働き続けたいと考える女性が増え、男性も、子どもを産んでも妻に働き続けてほしいと思うようになった。「イクメン」という言葉が流行語大賞になった。
  しかし、かつての働き方のシステムはまだ至る所に残っている。法制度は変えるのに時間がかかるし、慣行・慣習は本質的に粘着性があるのですぐには変わらない。日本の労働契約の本質は、職務に対する契約ではなくメンバーシップ契約、つまり、「この仕事をやります」ではなく「この会社に就職します」という契約であると言われるが、その要素はまだ色濃く残っている。

 働く人の意識が変わっているのに、制度や慣行は変わっていない。そこにギャップがあるから、冒頭に書いたような不幸な状況が生じていると思う。もちろん会社は利益を出さなければいけないので、働く人の意識だけで働き方が決められるわけではない。それでも、もっとみんなが幸せになる働き方があるのではないか。子どもを生み育てながら働き続けるという、当たり前のことがどうしてこんなに難しいのか。出生率の低下は、その矛盾の現れであり、今の働き方は、社会の持続可能性に関わる問題でもある。

  では、どうすればいいのか。どこから、誰が、何にアプローチすれば変わっていけるのか。それが難しい。(つづく)

(参考)
「迷走する両立支援」2010 〜格差と少子化の国のワークライフバランスは、いま〜 - wlb-cafe | パブー