フォームを守る

  先週末、全国の職場単位のチームで対戦する将棋大会(職団戦)があった。1チーム5人で422チームが参加(つまり、2000人以上の将棋好きが集合)するという大規模な大会で、会場となった東京体育館には、見渡す限り将棋盤が並べられ、壮観な眺めだった。私は職場の先輩から誘われて、今回初めて参加したが、チェスクロックを使った見知らぬ人との真剣勝負や、プロ棋士による指導対局などもあり、大変楽しかった(結果は散々だったが。。。)。

 真剣勝負ができたのはもちろんであるが、それとは別に印象に残ったのは、盤に向かった時のプロ棋士のたたずまいだ。(和服でなく)スーツを着ていることもあり、会場を普通に歩いているときは、普通のお兄さん(おっさん)という雰囲気と言えなくもないが、盤の前に座ると雰囲気ががらりと変わる。素人との指導対局で、盤や駒も1000円くらいのプラスティック製だが、ただ座っているだけでも既にオーラが出ている。駒を動かせば、その動作や立ち居振る舞いが非常に美しく、やはりプロは凄いと感動した。一言で言えば姿勢と手つきが違う。つまりフォームだ。これまで何千回、何万回と指している中で、フォームが磨き上げられ、それが美しさにつながっているのだと思う。

  テニスの試合を見ていると、毎回同じパターンでポイントを取られていて、なぜ同じパターンでやられ続けるのか、なぜやり方を変えないのか、と思うことがある。例えば、毎回のようにサーブ&ボレーで前に詰めて、後ろに抜かれる、ということを繰り返している。たまにはサーブ&ボレーでなく、ベースラインで打ち合ってみれば良いのではないか、と思う。だが、頑なに自分のスタイルを守っている選手を見て、ふと思った。それが彼のフォームなのだ、と。彼は、ひたすらサーブ&ボレーというスタイルを磨き上げ、世界のトップレベルまで登り詰めた。だから、ちょっと調子が悪いからといって、そう簡単に自分のスタイルを変えるわけにはいかないのだ。

 プロの要諦は持続性であり、持続性とはフォームを守ることだ、と私の愛読書である「うらおもて人生録」(色川武大著、新潮文庫)にある。そして、我々も何らかのプロであり、フォームがあるのはスポーツに限らない。職場で尊敬できる先輩を見ていると、いわゆる仕事のスタイルというのが確立している人が多い。反対に、自分の仕事のフォームが崩れると、体調がおかしくなったり、精神に変調をきたしたりする。毎朝決まった時間に起きて、満員電車に揺られるのも、一見非効率であるように見えながら、実はリズムを作る上では役に立っているのかもしれない。ホワイトカラーの仕事のフォームは、スポーツのそれのように分かりやすくはないけれど、「仕事ができる人」というのは、それぞれ自分のやり方を持っているのではないだろうか。私の仕事の「フォーム」は何だろう?そして、皆さんの「フォーム」は何ですか?