政と官①

  前回は、厚生労働省分割論を皮切りに、政と官の役割分担についてどう考えるかという問題を提起した。それを受けて、今回は、政と官について考えていきたい。

  政と官の役割分担を考えるにあたり、まず、それぞれの得意分野、不得意分野について考えてみたい。

  先に官について考える。官の特徴は、組織化された専門家集団であるということだ。組織として知識・ノウハウが蓄積されているため、継続性に優れ、力を合わせれば大きな仕事ができる。また、既存のフレームワークで対応が可能である限り、一律・画一的な処理が可能で、公平かつ効率的である。そして、専門知識を活かした具体的・現実的な政策提案が可能である。
 反対に、官の弱いところは、どうしても縦割りでものを考える傾向があることだ。組織で仕事をしているため、他人の所管にくちばしをはさむことは基本的にはルール違反となる。このため、特に所管がまたがるような問題についての対応が遅れがちだ。ところが、新しい問題というのは、往々にして既存の枠組みでは処理できないものだ。
  また、制度の側から物事を見がちになる弱点もある。「制度上はこうなっているので、実態もそうなっているはずです」、という説明であっても、実態が「そうなって」いないことはままある。「法の不知は恕せず」(法を知らなかったといって刑罰を免れることはできない)という言葉があるが、その言葉に寄りかかって、制度の整備をもって自分の仕事が終わったとする傾向がある。このほか、前例のない事態への対応は苦手だ。前例に従うというのは、単なる事なかれ主義ではなく、公平性を担保するという意味があるが、前例がないと、波及効果や類似事例とのバランスなどを考えるため、時間がかかったり、慎重な判断がなされたりしがちになる。

  一方、政(治)の特徴は、選挙を通して選ばれた者として、重大な決定を行う正統性があるということだ。「代表なくして課税なし」が民主主義の原点だが、まさに税のように国民に負担を課す決定は、政治により行われることが必要だ。また、政治家は、支持者などから直接の声を聞くことができるのが官との一番の違いだ。それにより、「国民目線」で政策を考えることが可能になる。そして、所管にとらわれず柔軟な判断をすることができる。官が制度を通じて人を見る傾向があるのだとすれば、政は人を通じて制度を見ることができるという強みがある。切羽詰まった状況を肌で感じているから、スピード感を持って対応することもできる。
 反対に、政の弱みは、基本的に個人プレーであり、専門知識の量にも限りがあるという点だ。一人でできる仕事の量にはおのずから限りがある。住民の声を聞いたとしても、それが一般化できるとは限らないし、「木を見て森を見ず」という過ちを犯す可能性もある。

  政と官でどのような役割分担をするかは、こうした政・官それぞれの強み、弱みを踏まえて決めるものとしか言いようがないが、上に記したような一般論では、なかなか具体的な姿がイメージしにくいだろう。そこで次回は、私が実際に経験した事例も紹介しつつ、もう少し具体的な役割分担の例について考えてみたい。(つづく)