秘書官という仕事

  今回は、私がこれまで約一年にわたって務めた秘書官という仕事について触れてみたい。若干手前味噌になるがご容赦いただきたい。 

  秘書というと、偉い人の日程管理をする人というイメージがあるかもしれない。もちろん日程調整もするが、私がしていた仕事は、むしろ、仕事を内容面でサポートとするという要素が強かった。内容面でサポート、とは、具体的には、私が仕えていた先生が正しい判断ができるように、必要な情報を集めたり、補足説明(アドバイス)をしたりするということである。

  現在の我が国の仕組みでは、中央官庁には、大臣のほか、副大臣政務官という役職(これを政務三役という)で基本的に国会議員が任命され、それぞれの役所に常勤する。これら政務三役は、行政庁における意思決定のトップとして行政を担うとともに、国民の代表として、行政を監視する役割を持つ。そして、政務三役にはそれぞれ担当する役所から秘書官ほか数人のスタッフが付く。
  我々役人は、中央官庁という大きな組織で仕事をしており、通常途中入社というものはないため、基本的に生え抜きのメンバーで仕事をしている。同時に、高い専門知識を有する専門家集団でもある。政務三役は、官庁の最高意思決定に関わるという重責を担い、そこに外から一人でやってくる。政務三役の役人観にもよるが、孤独と不安を抱えて職に就くことは想像に難くない。秘書官は、役人の一員として、政務三役のそうした孤独と不安を和らげ、役人と政務三役との橋渡し役となることを期待されている。
 そのためにまず一番必要なことは、政務三役の信頼を得ることである。信頼を得るためには、常に政務三役の側に立ってものを考えることが必要だ。政務三役の孤独と不安を理解した上で、常に政務三役の味方となり、安心して相談していただけるような信頼関係を築くこと。それが一番大切である。

  あまり巷間では知られていないかも知れないが、実際、政務三役の権限は非常に大きい。役人は、「(国民の代表である)政治家に相談せず勝手にやった」と言われることを大変恐れる。そこを批判されると中身の議論に入る前に決着がついてしまうし、役人個人の責任が問われかねないからだ。このため、おそらく一般に思われているよりもずっと細かい案件についてまで、逐一政務三役に相談し、了承を得てから動いている。特に、民主党政権になってから、こうした傾向が飛躍的に高まった。そこできちんとした判断がなされることが、政治主導の第一であろう。

  政治家が「正しい判断」をするために最も必要なことは、必要十分な情報を正しく伝えることだ。役所は巨大なシンクタンクだが、縦割りのこともあり、外から来た政務三役がそこから必要な情報を引き出すのは必ずしも容易でない。政務三役から、「これこれこういうことを知りたいんだけど」と言われて、その内容をきちんと整理・理解した上で、正しい部署からきちんと報告させること。説明者にとって都合の悪い情報は、無意識的に(あるいは意識的に)報告がされない場合があるが、役人心理をよく理解している秘書官であればその心が分かる。そこで必要なフォローができること、それが秘書官に求められる役割であり、役人が秘書官をやる意味。
 政治家が正しい判断ができることが、民主主義の根幹。秘書官の仕事は、民主主義の根幹を支える重要な業務。
  ・・・というわけで、一年間お疲れさまでした!