もし好きな本で野球チームを作ったら

 しばらくカタい話が続いたので、今回は、好きな本の話でも書こうと思う。ただ好きな本の紹介をしても面白くないので、ちょっと趣向をこらして、好きな本で野球チームを作ってみたい。これを読んでいただいている方も、自分の趣味にあわせて、音楽編とか、映画編とか、好きな人はやってみると結構面白いと思います。

1番 センター 沢木耕太郎深夜特急
 言わずと知れた名著。特に第1巻はいいですね。私も学生時代に香港に3か月住んだことがありますが、この本では香港の熱気やエネルギー、雑然とした感じがよく出ていると思います。今は香港も、ずいぶんきれいになってしまったようですが。。。「特急」で足も速そうなので、1番で外野の要であるセンター。

2番 ショート 伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー
  伊坂幸太郎は、いかにも今風の、匂い立つような文体ですが、ぎりぎりで嫌みになっていなくて、好きな作家の一人です。最近では「砂漠」も良かった。ちょっと他のメンバーと比べるとキャリアが浅いのは否めませんが、期待の新人ということでメンバー入り。器用で足も速そうなので2番ショート。

3番 サード 東野圭吾「秘密」
  東野圭吾は、多作ですが、どれもテーマがあって面白いです。最近は、やや雑なものもある気がしますが、それでも楽しめるのはさすが。「秘密」は初期の作品ですが、個人的には一番好きな作品です。身軽な巨匠で、打率も高そうなので、3番サード。

4番 ファースト 村上春樹ノルウェイの森
  人生で一番繰り返し読んだ本。中学2年生の時に初めて読んで、そのときはそれほど感じませんでしたが、その後、「羊をめぐる冒険」を読んで村上春樹にハマり、改めて読み返してみて一番好きになりました。読み過ぎて表紙が破れました。今読んでも面白いですが、高校生の時ほどの魅力は感じません。高校生の時に読んでおいて良かったと思います。最近では「海辺のカフカ」は久しぶりに良かったです。思い入れの強さで4番。

5番 ライト 高村薫「李歐」
  高村薫は、一文が長く、持って回ったような言い回しが独特のリズムを生んでいます。情念が渦巻くように延々と心理描写が続くのはいささかうんざりしないでもないですが、ヘビー級のパンチを繰り出しているような充実感は、たまにはこういう重いのもいいな、と思わせます。「李歐」は、あまり有名ではないかもしれませんが、情念が晴れたときの、長い冬が終わってようやく春が来たような開放感があって、好きな作品です。若干足が遅そうですが、長打と強肩が期待できそうなので5番ライト。

6番 レフト 浅田次郎「プリズンホテル」
  浅田次郎は良い本がたくさんあって悩みます。その中でも、「蒼弓の昴」と「プリズンホテル」が抜けているでしょうか。人情とユーモアがあって、最後はきちんと盛り上がって、と、水戸黄門ばりに安心して読める本ばかりで、ほっとしたいときに読んでいます。うっかり八兵衛のように動きが軽快なムードメーカーとして、6番。重厚な5番との相性も良さそう。

7番 セカンド 色川武大「うらおもて人生録」
  小説以外では唯一のメンバー入り。色川武大は、「麻雀放浪記」で有名な阿佐田哲也と同一人物。博徒として波瀾万丈の人生を歩み、人生の酸いも甘いも噛み分けた達人が静かに語る、何度読み返しても、そのたびに新しい発見がある名著。私の人格形成に大きな影響を与えていると思う。ちなみに「麻雀放浪記」もかなり良いです。意外性のある7番で、殿馬をイメージして守備位置はセカンド。

8番 キャッチャー 遠藤周作「沈黙」
  神はなぜ答えて下さらないのか――信仰の厳しさに徹底的に向かい合った作品。キリスト教がテーマになっているが、信仰を持たない人こそ読んだ方がいいと思う。アメリカに留学中にこの本を読んで衝撃を受け、クラスメートにも多かったイスラム教の勉強をしたりした。ドカベン級に重いので、キャッチャーで8番。

9番 ピッチャー 宮本輝青が散る
  大学時代のベストワン。「自由と潔癖こそ、青春の特権ではないか」――全力で青春を生きる登場人物。高三でこの本に出会って、大学時代に何度も読み返した。今では、眩しすぎてこの本を読むことができない。良い時期にこの本に出会えて本当に良かった。宮本輝は、「優駿」、「春の夢」などの初期の作品と、「草原の椅子」、「約束の冬」などの最近の作品も好きです。青春まっしぐらなのでエース。


おしくもメンバー入りできなかったけど名前を挙げておきたい本たち
宮部みゆき
  宮部みゆき好きです。丁寧で読みやすく、日本語もきれい。どれを読んでも面白いのですが、逆に抜けている作品がないような気も。「火車」はかなり面白かったですが。。。というわけで、スーパーサブ的な万能控え選手としてベンチ入り。

鈴木光司「リング」
  今まで読んだ本の中で、一番怖かった本。描写がグロテスクというのではなく、想像力に働きかける怖さ。これを読んだ後、しばらく風呂で頭を洗っていると後ろから誰かに見られているような気がして仕方なかった。必殺仕事人的な代打の切り札。

恩田陸夜のピクニック
  さわやかすぎる名作。高校時代に読んでいたら、もっともっと感動したような気も。ただ、この著者の他の作品では残念ながらそこまで刺さるものに出会えていません(と思ったら、これを書いた後、「きのうの世界」を読んだらなかなか面白かった。)。明るく元気なマネージャーとしてベンチ入り。


まとめ
1番 センター 沢木耕太郎深夜特急
2番 ショート 伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー
3番 サード 東野圭吾「秘密」
4番 ファースト 村上春樹ノルウェイの森
5番 ライト 高村薫「李歐」
6番 レフト 浅田次郎「プリズンホテル」
7番 セカンド 色川武大「うらおもて人生録」
8番 キャッチャー 遠藤周作「沈黙」
9番 ピッチャー 宮本輝青が散る

控え
宮部みゆき
鈴木光司「リング」
恩田陸夜のピクニック」(マネージャー)

 なかなか良い感じw 結構正統派なチョイスではないでしょうか?
  改めて振り返ってみると、小説は、やはり同時代のものがいいのかなと思います。携帯電話が普及した今となっては、ノルウェイの森の恋愛は、既にやや古風に感じてしまいますね。伊坂幸太郎が、今の若者に受けるのも分かる気がします。
  また、本は、出会う時期も重要かな、という気がします。学生時代に読んでおいた方がいい本はありますか、という質問を後輩から受けることがありますが、難しい古典だけでなく、小説を読むのも良いかも知れません。

 皆さんはどうでしょうか?今度、リストを持ち寄って皆で一杯やりたいものです。