総理をモチアップする

アメリカに留学していた際、大統領が支援者に囲まれて演説をしている姿を、テレビでよく目にした。大統領が演台に立ち、その周りを熱烈な支援者が埋め尽くす。中には、”We love OBAMA”などのプラカードを持った支援者もいる。そして、大統領が何か言うたびに拍手と歓声がわき起こる。日本でも、こうしたシーンがときおりニュースなどで放映されるので、見たことがある人も多いと思う。総理自らが政策のPRのために会見を開くことは日本でもよくあるが、私ははじめこれを見たとき、集会にこんなに熱心な支持者が集まるなんて、アメリカ人はやっぱり政治が好きだなあ、などとのんきに思っていた。

ところが、大学の講義で、これには政府の政策をPRすること以外に別の目的があるということを知った。それは、大統領が何かを言うたびに、観衆が拍手と声援で応えることで、自分の人気が健在であり、世論の強い支持を受けているという印象を大統領に与えることであるという。そして、それによってほかでもない大統領自身をモチベートする(やる気を出させる)という狙いがあるというのだ。大統領は、大きな責任と権限を持ち、職務に対する重圧はすさまじい。万が一、大統領の精神が健全でなくなれば、誤った判断のもとで核のボタンが押されかねないリスクがある。したがって、大統領のやる気が常に高いレベルに保たれるよう、こうしたイベントが定期的に開催されるのだという。

日本では、以前、安倍総理、福田総理と、現役の総理大臣が二人連続で突然の辞職をした。あまりに唐突だったので大変驚いたが、この二人は、辞めるに至るまでの過程もよく似ている。野党やマスコミから批判され、自民党の内部からの突き上げがあり、閣僚が一人、また一人と不祥事などで辞任し、官邸の側近にもそっぽを向かれ、孤独になり、肉体的・精神的にも追い詰められて、最後は政権を投げ出すような形で突然辞意を表明する。いろいろ批判はあるとは思うが、国のトップリーダーが、二人も続けて心が折れてしまうのはやはり尋常でない。それを総理個人の資質の問題にするのは簡単だが、海千山千の世界を勝ち抜いて来た総理大臣がただ者であるはずがないとも思う。トップリーダーの孤独を思うとき、私は、日本でも、総理のモチベーションを高める戦略が必要なのではないかと思った。

リーダーとは本質的に孤独なものであり、その孤独に耐えられる精神力が不可欠であることは言うまでもない。ただ、総理は大変な激務であるにもかかわらず、野党はもちろん、マスコミや与党の中からまで批判され続ければ、いずれやる気を失うのも当然だろう。つい最近、外遊に出発する前の菅総理の生き生きした表情は記憶に新しいが、官邸と国会にカンヅメになれば、息が詰まるのも無理はない。たまには支持者を集めて演説でもして、元気を取り戻してもらう工夫も必要ではないだろうか。一方で、総理を叩くというのが野党やマスコミの戦略であるのは分かるが、あまり行き過ぎるのもどうかと思う。総理がやる気を失って一番困るのは、結局国民なのだから。